去りにし日々、今ひとたびの幻 [本と雑誌]
ボブ・ショウの本を読了。
「取り込んだ光が遅れて開放される」特性を持つスロー・ガラスのアイデアを背景に、その時代の人と、発明者の人生を描いたSF小説でした。
ガラス越しの光景が遅れて投影される、融通の効かない映写機のようなガラスが及ぼした世の中への影響がまず面白いです。
美しい風景を取り込んで「風景窓」として売り出す商売が隆盛を極め「5年物(5年間風景を映し続ける)」「10年もの」などと言った呼ばれ方をしているのが人間味を感じます。
アルバン・ギャロットは不器用な男性で、妻の父親の資金援助で技術開発をする会社をどうにか経営していますが、新型の超音速旅客機の耐熱窓用に作ったガラスが、スローガラスであることがわかり、その発明者として巨万の富を築き上げます。
同時にこのガラスは、社会を一変させるような影響を世界中に与えました。
いくつかの短編をまとめた長編となっているので、その世界に住むある晩以外の人々も描かれます。
偶々映り込んだ、今は亡き家族の光景に浸る人の話はもの悲しさを覚えます。
スローガラスが証明するはずの事件の真相を5年間待った判事の話は、時間の残酷さを感じたりもしますね。
アルバンの方の話では、スローガラスをトリックに使った推理ものなども描かれていました。
そしてその事件にかかわった際の転機が、心を停滞させていた、彼の人生を大きく進ませることにある構図が、SFアイデアとの対比としても素晴らしく、開放感のあるものでした。
大変面白い読書でした。良い本です。
2022-01-16 11:02
nice!(0)
コメント(0)
コメント 0