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理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ! [本と雑誌]


理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!

理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!

  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2020/12/11
  • メディア: Kindle版



のんびり読んでおりましたが読了。大変面白い読書でした。

今年のコロナ禍、その第一波の中で「8割おじさん」と自他ともに呼ばれた西浦先生の本。
コロナの気配が忍び寄っていた昨年末から今年の第一波を乗り切り、第二波を迎える辺りまでに先生が「何を考え、何をしていたか」を記録した読みやすいレポートです。

必然的に、内容はクラスター対策班、専門家会議(の中でも、意外なことに正式メンバーではなく、要請により出席していた立場、とのことです)での日々の苦闘が中心に描かれています。
あの混乱とせめぎ合い、世間のバッシングの中、その舞台裏が良くまとまっていると思いました。
ある意味、このコロナ禍で我々市民が誰もが知りたい舞台裏のレポートです。大変興味深く読ませていただきました。

元々この本を読もうと思ったのは、西浦先生という人物に興味があったからです。

日々ニュース(TVもネットも)でまくしたてられる、本当かデマかわからない情報の洪水。膨れ上がってくる不安感と恐怖感。私も御多分に漏れずパニックで混乱していた日々の中で、ご自身を「8割おじさん」とおっしゃった方が目に留まりました。
多分夕方のニュースの画像の中ですが、切り取られた会見の中で「8割おじさんと呼んでください」とおっしゃった方の言葉が、どういうわけかすとんと、腑に落ちたのです。

それから何となく注目して発言を追っていくうちに、理論疫学という聞き覚えのない学問をされていること、それをもってこのコロナ禍に立ち向かっていっていること、歯に衣着せぬ(本を読むと結構言葉は選んでいたそうですが)直球の提言と解説に、なんとなく直感で「あ、この人は正直にものを言っている」と思ったのです。

元々自民党が嫌いで、政治家や政府は嘘ばかりと考えている身としては結構新鮮でして、この方の発言と、尾身会長の会見はある程度の信頼度を置いて見ることができるようになったのは、人間不信による不安をだいぶ和らげてくれました。

先日ツィッターでこの本が出版されたことを知り、これは読まねばなるまいと、取るものもとりあえず、アマゾンで注文(お出かけは相変わらず極力控えております)
1週間ぐらいかけて読んで、先ほど読了した次第です。

時期的にいわゆる「暴露本」と思われそうで、率直な記録になので確かに一部そうなっている内容もなくはないですが、これはコロナ対策体験のレポートです。
そこは学者先生らしく、要点が良くまとまった、良質のレポートでした。言葉も理解しやすいものを選んでくださってる印象で、わかりにくいところはごく一部の数式を覗いて、特になかったです(理系なんだが数学苦手なのよ)

最も興味深かったのは「理論疫学とは何ぞや」という部分でした。
こちら冒頭に前提としてまとめられていますが、感染者の数や経路、増え方、感染日時などのデータから、将来はこれぐらい感染が広がるとか、今の感染者数だと、計上されている数のほかに実際はこれぐらいの患者数があるはずとか、そこから逆算すると、最初のこの時点ではこれぐらいの患者がいたとかなどなどを、数学的に算出できる学問のようです。

海外では防疫の場面で通常使われるツールとなっているそうですが、日本ではこれを実務レベルで操れるのは西浦先生だけだそうです。逆に西浦先生がいなければ、第一波はあの程度では済まなかった、というのを、この本を読んで強く感じました。
これは日本に先生がいてくださった幸運でもありますが、逆に言えば他に扱える人がいないという危ない状況で、まさに首の皮1枚で日本はいま命脈をつないでいると感じました。

帯には「生まれて初めて殺害予告を受けた」とあるように、その直線的な指摘と警告は反発の集中を招き、相当つらかったそうです。
そういう時を含め、すべてのステージで尾身会長や専門家会議の先生方には助けられたそうですが、西浦先生も同じように他の先生方を助けておられたのだと思います。
コロナ対策は西浦先生一人で進めていたわけでは当然なく、あの会議の誰か一人が抜けても、あの第一の山は乗り越えられなかったんじゃないかなあと思いました。

専門家会議の他の先生方についても、多く触れられていました。
特に気になったのがやはり尾身先生です。会見やTV番組で拝見するその柔らかい物腰に、僕は勝手に菩薩のようなお人と尊敬しておりますが、会議の場では時に激高し、時に叱ってくださる激しい面をお持ちだというのは凄く意外でした。
緩急がしっかりしておられるようで、剣道の腕前は相当のものとのこと。やはりああいう精神をお見せいただける方は、何かしら道を究められているのだなあと改めて感心したりしました。
そして西浦先生にとっては理想のボスだったそうで、理想の上司にあこがれる一サラリーマンとしては、何やらうれしく感じるなどしてしまいました。(なお、幸いにして僕の今の職場には、ようやく出会えた理想の上司がおられることを自慢げに付け加えておきます)

興味深いのが、矢継ぎ早に出された数々の指標や「3密」「オーバーシュート」といったものの成立、誕生過程で、役所にはそういうユーモアというか、言葉づくりにたけた人がいるのは、なんだかんだで日本の官僚的だなあと思ったり、様々な疑問から仮説を導き、ある程度の裏付けで確認してから対策につなげていく分析の見事さ、難しさは時間を忘れて読みふける面白さがありました。
下手な冒険小説よりエキサイティングですね。

そしてどうしても気になったのが、厚生労働省などの官僚や大臣、官邸とのかかわりの面。
詳細は中を読んでいただくのが良いですが、やはり相当な軋轢(表現が正しいかはわかりませんが、調整に難航したり、物別れに終わったりという場面はあったようです)があったようです。
世間の注目を集めたアベノマスク配布に至っては、あの温厚に思われた尾身先生が激高して担当大臣につめよったとのことですから、政治と化学はなかなか連携が難しいのだと思いました。
終盤のまとめで言及されていますが、政治家は西浦先生のような専門家の「使い方」がわかってないのでは、と評価されており、僕も先生同様、ニュースを追っていて同じことを感じていたので、中の人も似た感想であることはちょっと喜んだりもしました。

自治体の首長との会議を通して知事の方々を評されておりますが、北海道知事は僕が思っていたように、だいぶ頭の切れる方のようです。実際に拡大した感染を早々に低減させていったところからも、人の意見を聞く実務肌と言ってよいと思いました。
反面、当時並び称されたイソジン知事、じゃなくて大阪府知事は、まあ、なんというか。相当あれだなあという印象を確認させていただきました。
東京都知事に関しては、まあ百合子さんだなと(笑
詳しくは読んでみてください。

一つ意外だったのは、豪華客船「ダイヤモンドプリンセス」の顛末です。
僕はニュースを見ていて厄介なことだ、早く乗っている人下ろしてあげればいいのに、とか負の側面ばかり見ていまして、実際先生方も大変ご苦労されたとのことですが、この閉鎖されたコロニーのデータを早期に分析出来たお陰で、のちの感染対策に役立つデータが多く得られていたらしいということです。
何事にも功罪あるものとは考えていましたが、ここでもそうだったとは、そこまでは全く考えが至りませんでした。ううむ、自分はまだまだ未熟です。


本文に言及がありますが、理論疫学は、感染対策の際に「羅針盤」となることを期待される学問だそうです。実際今回のコロナ対策でもそういった役割を果たしてきたようです。

少ないデータから多くの情報「地図」のようなものを引き出し、じゃあどう動こうか、という方向性を示す「羅針盤」となる学問だ、と理解しました。(正確ではないかもしれませんが)
今後、この学問分野がより発展し、すそ野が広がっていくことを期待します。

良い読書でした。おすすめです。
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