鋼鉄都市 [本と雑誌]
今月のSFノルマはアイザック・アシモフ。こないだまで読んでいた「黒後家蜘蛛の会」の流れで。
あれと同じくのんびり一か月ぐらいかけて読んでました。現在絶賛ぷーたろー故通勤時間がないから文庫の類は読み進めるのが遅くなりますな。
さて本作。
アシモフの代表作だそうで、読み終えてみると確かにこれはすごいなあと思いますが、読み始めたときは、あれ、これ本当にアシモフ?ってぐらいあまり引き込まれなかったのが不思議です。
舞台は遥か未来の地球。
人々はシティと呼ばれる、外界から隔離され、増えすぎた人口を養うために高度に自動化、効率化された世界に住んでいます。
既に宇宙移民は行われており、結構な数の開拓惑星があるのですが、そこの人々との意識の隔絶は深刻で、現在閉塞しつつある地球をどうにか生き延びさせようと地球に戻ってきている宇宙市民たちは、宇宙人と呼ばれ、地球人たちからは何か違うものとみなされています。
そんな中、絶対不可侵のはずの宇宙市(宇宙人が済む隔離エリア)で、あるはずのない、あってはならない、宇宙人が殺されるという殺人事件が起きます。
地球は既に、宇宙人たちの持つ進んだ技術による戦力に対抗する術を持たない立場であり、この事件は一歩間違えば地球が滅ぼされるという、非常にデリケートな意味を持って物語の中に登場します。
主人公はシティの警察に勤めるごく普通の刑事の男。取り立てて優秀な名探偵タイプでもなく、ハリウッド映画に出てくるようなスーパーコップ的な強さも持ち合わせてはおりません。
普通の地球人らしく、自分たちの仕事を着実に奪ってゆくロボットが嫌いで、宇宙人とはかかわりたくないと思っており、降ってわいたこの厄介な事件捜査を早く放り出したくてたまらなくて、とはいえどうにかして自分と家族の生活を守るか、もう少しランクの高い階級の配給を受けられるようになれないかという考えを抱いた、いわば小市民的な男です。
彼のパートナーとして宇宙市側からつけられたのが、非常に成功に作られた、人間とは見分けのつかないロボットであるという事態が、一層彼の精神をさいなむのです。
そんな状態の彼ですから、鮮やかな推理で事件を解決することもできませんし、スカッと爽快に事態を解明することはできません。
むしろ疑心暗鬼や不安、恐怖心から、堂々巡りを繰り返し、大々的に間違った推理を展開しては手痛いしっぺ返しを食らいます。
その傍らで、パートナー(?)のR・ダニールは、常にそこにいるのです。
大筋としてはこんな感じですね。アシモフといえばSFという印象ですが、先述の黒後家蜘蛛の会を読むとミステリもかなりの物なのが分かります。
本作は、その両方が楽しめる、ある意味お得な物語とも言えそうです。
物語の根底にあるのは、アシモフ一流のロボット三原則であり、事件の真相についてもこの三原則が深くかかわっています。
それと同時に未来の管理社会や、宇宙人という、外側の視点からの地球の人々の姿や性質など、ある意味哲学的な考察などもあり、読みながら大分あれこれ思いを巡らすお話でした。
先に書いた、なかなか面白さが分からなかった点が実はこの本の一番面白いところであることが、読み終えてみるとわかるのですが、この主人公の男性が決してスーパーマンではないために、爽快な物語ではありません。
ですが彼の悩みや苦しみ、誤解や間違いはなんだか自分がやっているような気になってくるので、後半に行くにつれてだんだん話に没入していく感じが面白かったです。
彼の内面描写は、彼を通して我々一般的な社会人の姿を映し出しているようでもありますし、なんとも言葉にしづらい感触を与えられます。
読み終えてみると、SF小説ではあるのですが、なんてことはない、根底にあるのはロボットt、宇宙人という鏡を通して自分を見つめなおす物語であるのだと感じました。
読みながらいろいろと考えさせる小説でしたね。考えさせてくれる本は良い本です。
大変面白かったです。
なんとなく、このままm来月もアシモフを読もうかなあという気分ですが、まあ来月のことは来月考えます(笑
2017-02-24 22:57
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