美森まんじゃしろのサオリさん/小川一水/げみ [本と雑誌]
少し時間が空きましたが、読了しておりました。
ミステリ仕立ての近未来SFのようでいて郷土もの。
SF作品でファンになった小川一水先生の短編集。美麗なげみさんの表紙が目を引きますね。
まあそんなことをツィッターでつぶやいたら、作者様に捕捉されてえらい勢いでRTされて焦ったりもしましたが(笑)
ともあれ面白い読み物でした。
舞台は田舎の寒村美森町。時代は近未来で、僕らの時代から3~5年ぐらいしたら実現してそうな、テクノロジーの民間普及がなされている世界観。
主役は二人。
一人は体のデカイ強面の青年、岩室猛志。都会で暮らしていただけあってそれなりにIT機器が扱えつつ、諸般の事情でこの町に住むことになり、役場公認の何でも屋で生計を立てようと悪戦苦闘している、まあ好感のもてる人物。
一人は貫行詐織。この町に住む美人の大学生。猛志が来るまでは、村でほぼ唯一の若者だった、謎の多い女性。
二人が時折コンビを組んで、役場公認の探偵<竿竹室士>として出動し、町で起きた不可思議な出来事に対峙するのがまあ、基本的なお話の筋になります。
登場するハイテク機材は、農作物を守る、獣除けのプログラム可能な動作ワイヤーや、宅食を配達する無人ワゴンカーなど、どこか手に届きそうなインフラテクノロジーの数々。
またネットワークが順当に発達しており、街には昔ながらの住民と、田舎の風情を気に入り、仕事はネットワークのおかげで場所を選ばない今時の世代の人たちがともに暮らしております。
描かれる事件は、この両者の共存に向けた摩擦のような、些細なものが中心です。派手な殺人事件は起きませんが、それなりに危ない事件も起きたりはします。
その中、詐織がホームズ訳、猛志をワトスン役として物語は紡がれていきます。
面白いのは、登場するトリックが、先述したような、普及し始めたテクノロジーに関連したものが中心で、いわばトリックの土台から作者の想像力から作り出されるので、ある意味ミステリとしては反則なのかな。
ですがそこはSF作家らしく、最初にきちんとルール説明のように、それらの機能はあくまで一般的なテクノロジーで、万能ではなく、何ができて何ができないかを明示してから行われるので、そういう意味ではルールにのっとったミステリともいえます。
この辺のさじ加減が面白く、つい物語に入れ込んでしまいますね。
短編集と申しましたが、短編仕立ての5つの事件を連ねて、1冊の物語として構成しているので、全体で長編という見方もできるかと。
話が進むにつれ、一部偏執的なまでに美森町を愛する詐織と、街に入ってきたばかりの猛志の対比や擦れ違いなども描かれ、読み終えてみれば、立ち位置の逆転現象が起きているあたり、よく設計された面白さがあると思います。
派手さはないですが、田舎の時の流れのようにゆったりと空気が流れ、しかし都会の喧騒のように変化が連鎖していく、どこか不思議な香りのする物語でした。
分量的にも読みやすく、エピソードがそれぞれ独立しているので電車の車中などで読むには最適の一冊かと思います。
面白かったです。お勧め。
2015-10-01 22:10
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