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造物主の掟 [本と雑誌]

今月のSFノルマはジェイムズ・P・ホーガン。

異星種族との接近遭遇話ではあるのですが、そうか、こう来たか。なんだかやられた気分です。

主人公は霊媒を自称するペテン師のカール・ザンベンドルフとそのスタッフたち。

彼等を含めた西欧諸国の調査部隊を乗せた長距離宇宙船が植民計画のために火星に向けての長旅の準備を整えているところから話は始まります。

ザンベンドルフ達は綿密な情報収集と様々な手法を使って自らの神通力を演出しているので、このたびに際しても手練手管を駆使して情報を集めた結果、どうも行き先は火星ではないようだということに気が付きます。

実際に彼は、最高の演出でこの船、オリオン号の目的地が火星ではないことを暴露し、最高の演出効果を得てまずは成功を治めます。

オリオン業の目的地は、木星の衛星タイタン。この惑星ほどの衛星の調査のために降下した探査機が次々に行方不明になっていたのですが、それが送ってよこした情報の中に、機械仕掛けの何物かがの情報があり、その調査、そして接触が、オリオン号の調査部隊の真の目的だったのです。

タイタンには機械人と事故を呼ぶ機会の人類が築いた、中世程度の文化レベルの文明社会が存在しており、そのファーストコンタクトにザンベンドルフはまたも一役買います。

この辺から彼はペテン師と言うより、そのために培ってきた観察力と直観力で瞬く間に機械人タロイド達とのコミュニケーションを成立させていくのです。

タロイドの文明は、長い間造物主と呼ばれる、彼らを作りたもうた存在を神とあがめ、それを盲信する国々が担っていましたが、一部にかつての地球と同じように、聖書の記述を盲信するのではなく、事実から導き出される心理、すなわち科学的哲学的思考をする人々が実験的な国家を作り上げており、最初にザンベンドルフが接触したのは彼らで、友好的な関係を瞬く間に築き上げていきます。

しかし地球の首脳陣は彼らタロイドの持つ生産力から得られるであろう莫大な資源を狙っており、ザンベンドルフのような接し方が程なく邪魔になってきます。

そしてさまざまな対立が生まれ、2回3回のどんでん返しが生じるわけですが、ここから先は実際に読んでいただいた方がいいでしょう。


読み始めた当初は、超能力者を自称するペテン師が主人公と言う、SFらしからぬ滑り出しにハテナマークを浮かべまくったものですが、中盤まで来ると、なるほどこの物語は彼の視点だからこそ描けるものなのだなと言うのが程なくわかってきます。

ザンベンドルフとそのチームの考え方の基盤となる、「何故彼らがその道を選んだか」というくだりがきちんと納得のいく、どころか共感さえ生む筋としてきちんと描かれており、それがこの事態に臨むザンベンドルフのモチベーションにすんなりつながっていく様は、もはや芸術の域でしょう。

彼の台詞、不倶戴天の敵対者との同盟に至った際のザンベンドルフたちの会話が実に的を得ていたので、いくつか抜粋してみます。(P323~より抜粋


「今日の高度科学技術社会でいちばんの問題点は、大衆にそれを理解するための手段を与えず、政治家にその運用を許してしまったことだ。
 彼らの意識は、いまだ十九世紀から抜け出ていない。不用品即売を切り回す能力もない連中に、複雑極まる経済の管理などできるものか。ちょとした知識や知性の必要な仕事になると、もうお手上げなんじゃないかね?

「でも、連中がそれを持ち逃げするにまかせたのは一般大衆でしょう。指導者に馬鹿者を選んだら、人々はひどい目に会うことになる。しかしその馬鹿者を責めてもしょうがない。憲法が保障しているのは立派な政府なんかじゃない。---代議制を保証しているだけだ。その結果がこういうことになっちまったんですよ

「その制度の問題点は、選挙で選ばれる基準が、まさしくその選出されるための技能だけにかかっているということだな・・・票を集める期間中だけ必要な人数の人間をたぶらかしておく能力があれば、それですむわけだ?
 不幸にして、公職に就くために必要な個人的素質は、当の公職が要求するそれと事実上正反対だ。不正行為によってのみ合格できる試験が、正直な人間を選び出せるはずがなかろう?まったくわかりきったことなのに---


なんというか、読んでいて耳が痛くなると同時に痛快さも感じるこの一連のくだりが、私としてはこの作品の面白さの真骨頂なんではないかと思います。

まあ要するに、ペテンを使ってもっともらしく社会的な名声を得ている馬鹿者どもはいくらでもいるのだから、多少毛色が違っていても同じ手段で濡れ手に粟のカネが手に入るなら、ザンベンドルフだけがその手を使わない必然性はないわけで。

この実利主義ともいえる判断と、そこはかとない社会への悲しい失望が、つまりはザンベンドルフ一党がこの道を選んだ理由であり、同じくらいにその馬鹿者どもの食い物にされるタロイドの運命を変えさせようという強い動機になっているわけです。

この動機が示された後の二転三転するどんでん返しを読んでいる頃には、すっかりこのペテン師を応援してしまいたくなる自分が居り、間違いなく彼らがこの物語の主人公を張るに足るヒーロー性のようなものを持っていることに共感しながら読み進めることができました。

やあ、面白かったです。


もちろん先のザンベンドルフ達の問答は、一種の極論ではあるのですが、今の閉塞した社会の痛烈な分析の一つでもあるわけで、いろいろと考えさせていただきました。

そして毎度書きますが、考えさせてくれる作品は良い作品です。


大変有意義な読書でした。お勧めです。


続編もあるので、次はそっちを読んでみようかなあ。

造物主(ライフメーカー)の掟 (創元SF文庫 (663-7))

造物主(ライフメーカー)の掟 (創元SF文庫 (663-7))

  • 作者: ジェイムズ・P・ホーガン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1985/09
  • メディア: 文庫



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