SSブログ

東京五輪の大罪 ――政府・電通・メディア・IOC [本と雑誌]


東京五輪の大罪 ──政府・電通・メディア・IOC (ちくま新書)

東京五輪の大罪 ──政府・電通・メディア・IOC (ちくま新書)

  • 作者: 本間龍
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2021/12/17
  • メディア: Kindle版



長尾剛先生が読んでらしたの流れてきたので読んでみました。

序章はサクサク読めましたが、2021年当時の東京五輪への恐怖や憤り、ストレスがフラッシュバックしてくるので、読み切るのがなかなかきつい本でしたね。

僕のような、オリンピックそのものや東京五輪に懐疑的な人にはお勧めできない本です。すでに知っていることのまとめですし、前述の通り読むのにはストレスが果てしなくたまります。

一方でアスリートやアスリート出身の方にはお勧めしたい本です。あなた方の目指すオリンピックがどれほどの被害や犠牲者を出しているのかを把握した上で、競技に臨むなり声を上げるなりしてほしいと思いますので。

前述したとおり、東京五輪招致ごろから現在(2022年初頭)までに明らかになっている、東京五輪の問題点のまとめ本といった内容です。

武田砂鉄さんの「偉い人ほどすぐ逃げる」にもあった通り、こういう問題は忘れ去られるのが困るので、こうして読みやすい形で1冊にまとめる価値は十分にあると思います。

偉い人ほどすぐ逃げる

偉い人ほどすぐ逃げる

  • 作者: 武田 砂鉄
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/05/27
  • メディア: 単行本



まとめられていた中で特に着目したくなったのは、2点あります。

ひとつは、IOC、JOC、組織委員会、電通、そして何よりアスリートによる、五輪ボランティアに対する著しい蔑視に関するまとめです。

ボランティアが無償奉仕だという、日本人に広く広まった誤解を巧みに商業利用し、オリンピックという巨大な集金システムのコストダウンを図っている点などは悪辣の一言では足りないほどで、搾取されているボランティアの皆様に同情したくなります。まあ、そこに騙されて自分から参加していくボランティアの皆さんも阿呆と言えば阿呆なのですが。

もうひとつは、大きく紙幅を割かれている翼賛メディア体制に関するまとめです。
2020年に騒がれるまで私は認知していなかったのですが、主要メディアがそろってスポンサーになることで、ここまで恐ろしい欺瞞と隠蔽の構図が完成するとは驚きでした。

日本の大東亜戦争をめぐる大政翼賛会が類似に出ますが、あれは国家主導で在ったのに対し、東京五輪においては電通という、たったの1私企業によってその構造が完成できるという事実は、恐ろしいというのを通り越していますね。

「他の新聞社・メディアに出し抜かれるわけにはいかない」という競争意識を巧みに利用されたと分析されていますが、構図としては、グリコ・森永事件の犯人に、新聞社間の競争意識を同様に利用された構図とまったく同じで、つまりは戦中を含めると3度、同じ間違いを繰り返しているのですね、日本の新聞社は。そろいもそろって。

きっと4回目の間違いもあるでしょうし、私が気づいていないだけで、他にも何回も同じ間違いを繰り返しているのでしょう。

読む価値のある本でした。
nice!(0)  コメント(0) 

去りにし日々、今ひとたびの幻 [本と雑誌]



ボブ・ショウの本を読了。

「取り込んだ光が遅れて開放される」特性を持つスロー・ガラスのアイデアを背景に、その時代の人と、発明者の人生を描いたSF小説でした。

ガラス越しの光景が遅れて投影される、融通の効かない映写機のようなガラスが及ぼした世の中への影響がまず面白いです。
美しい風景を取り込んで「風景窓」として売り出す商売が隆盛を極め「5年物(5年間風景を映し続ける)」「10年もの」などと言った呼ばれ方をしているのが人間味を感じます。

アルバン・ギャロットは不器用な男性で、妻の父親の資金援助で技術開発をする会社をどうにか経営していますが、新型の超音速旅客機の耐熱窓用に作ったガラスが、スローガラスであることがわかり、その発明者として巨万の富を築き上げます。

同時にこのガラスは、社会を一変させるような影響を世界中に与えました。

いくつかの短編をまとめた長編となっているので、その世界に住むある晩以外の人々も描かれます。

偶々映り込んだ、今は亡き家族の光景に浸る人の話はもの悲しさを覚えます。

スローガラスが証明するはずの事件の真相を5年間待った判事の話は、時間の残酷さを感じたりもしますね。

アルバンの方の話では、スローガラスをトリックに使った推理ものなども描かれていました。

そしてその事件にかかわった際の転機が、心を停滞させていた、彼の人生を大きく進ませることにある構図が、SFアイデアとの対比としても素晴らしく、開放感のあるものでした。

大変面白い読書でした。良い本です。
nice!(0)  コメント(0) 

プロジェクト・ヘイル・メアリー [本と雑誌]


プロジェクト・ヘイル・メアリー 上

プロジェクト・ヘイル・メアリー 上

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/12/16
  • メディア: Kindle版



「火星の人(邦題:オデッセイ)」の原作で一躍メジャーになった、アンディ・ウィアーの新作です。
ツィッターで流れてきて新作が出たのを知って、取るものもとりあえずポチって一気に読了してました。


いやあもう最っ高に面白い!
面白いんですが、どこを紹介しようとしてもネタバレになり、ネタバレが致命的な類の作品なので、さてどう紹介するか(悩

主人公はある部屋で目覚めます。目覚めますが自分がどこにいるか、自分が誰か。自分の名前すら思い出せない。
何故か世話をしてくれるロボットアームに身をゆだねながら徐々に意識がはっきりしていきますが、何もわからない。
どうにか動き出して、自分のベッドのほかに二つのベッドがある事がわかりますが、そこには物言わぬ男女のミイラが横たわっているのみ。

やがていくつかの実験を経て自分の状況を少しずつ把握し、並行してよみがえってくる記憶を垣間見ることで、滅亡のカウントダウンが始まった地球を救う任務が自分にある事、未だ大部分の記憶を失った状況であることがわかってきます。

ミッションのために、様々な探求をする「現在」と、よみがえってくる記憶による「過去」の話が並行で進み、奇妙なパラドックスを読者に与えつつ、雪だるま式に大事になっていく物語が、息をもつかせぬ興奮に、読者を放り込んでいく。
そんな物語でした。

いやはや、読み進めるうちに、「そんな馬鹿な」と口をついて出ることが幾たびあったことか。
次々に提示される展開や事実、情報が滝のように押し寄せる、素晴らしい勢いのある読書が楽しめる作品です。

そして結末には、それまでが嘘のような温かいものが心を満たしてくれる。
そんな素敵な物語でもありました。

やあもう最高ですね。おすすめです。
nice!(0)  コメント(0) 

クリエイターとクライアントはなぜ不毛な争いを繰り広げてしまうのか? [本と雑誌]





読了しました。

最初に書いておくと、暴露本では無く、ちゃんとしたビジネス新書です。
(新書にちゃんとした、という言葉付けるもの変かもしれませんが、直感的なのでこう表現しておきます)

僕自身けものフレンズの監督降板騒動では少なからぬトラウマを負っているので多少期待したのは否定しませんが、福原さんはちゃんとしたプロデューサーなので(どこかの細い人とは違い)そういう内容じゃないだろうなとも思っていたので、特にがっかりはしません。
いわゆる「9.25」で時計が止まってしまったままの人にとってはつまらない内容だと思いますが、その後前に進んでちゃんとした仕事している人にはビジネス書として十分面白いのではないかと思います。

概要としてはタイトルの通りで、アニメやマンガ、ゲーム、音楽など、エンターテインメント業界でお二人が経験してきた不幸なもめごとの数々から見出してきた、一定の共通項「クエリエイターとクライアントの間のもめごとは、主にお互いがお互いを理解していない点から起こることが多い」ことを文章化(見える化)し、公知することで共通認識としていき、少しでも不幸なトラブルを減らしていければ良いな、という内容です。

章立てが論理立っており、よくできています。

まずはクリエイターとクライアントってこういうもんだよね、というざっくりとした全体像の紹介から始まり、クリエイティブなビジネスの工程である、準備、発注、納品、納品後、の、それぞれの順を追って、トラブルの事例や、それがなぜ起きるのか、防ぐにはどうしたら良いかの例示・提案、を対談形式で述べています。

読んだ感じ、福原さんが対談の相手に、やしろさん を選んだのは、これら困りごとを言語化できる人だからですね。まともにサラリーマンやってるビジネスパーソンならわかると思いますが「困りごとを言語化できる」というのは立派なスキルです。できない人はできないんだこれが。
まあでも、読んでみると「福原さんが対談相手を選んだ」というより、「お二人が一緒に仕事していているうちに「業界あるある」で共感して本にしようかという流れになった」のではないかと推察します。

土台がクリエイター業界なので、もちろんその筋の人に向けた内容ですが、ビジネス上での相互理解の重要さとその具体例と言うのは僕の居るIT業界でも同じく重要なので、業界外の方でも得るものが多い内容ですね。僕は素直にそのあたり大変勉強になりました。

個人的に面白かったのは「電話がかかってくるとクリエイターは緊張する」辺りで、僕も電話苦手なので、やしろさんの気持ちがすげえよくわかります(笑
脳みそフルで回しながらガギガリコード書いてるときとか仕様書書いてるときに電話かかってくると死ぬかと思いますね。

後は「クリエイターは請求書出すのに物凄いエネルギーがいる」と言うのも共感できます。
僕は業務でしょっちゅう請求書の処理をしていますが、それでもお金を扱うので緊張しますし、ましてや慣れてない個人営業のクリエーターの方は、やりたくねえだろうなあ、と言うのは推察して余りありますなー。

付録に、本文で紹介されていたヒアリングシート、リテイクシートの具体例があるのは良いですね。
僕らの仕事(IT系開発者)だとQA表が近いですが、こういうフォーマットって現場や業界ごとに工夫があるので、それを例示してもらえるのは、この業界の方は嬉しいのではないでしょうか。

対談形式なので文体も読みやすく、分量的にも1時間ちょっとで読めるので読みやすいです。

大変面白い読書でした。おすすめ。
クリエイター業界では、時々眺めているジョヴァンニワークスさんが公開してくれているYouTubeチャンネルの業界ハウツー動画とも重なる部分があるなあと思い、興味深かったです。
別件ですみませんが、あちらの動画もお勧めです。

nice!(0)  コメント(0) 

感染症疫学のためのデータ分析入門 [本と雑誌]


感染症疫学のためのデータ分析入門

感染症疫学のためのデータ分析入門

  • 出版社/メーカー: 金芳堂
  • 発売日: 2021/10/10
  • メディア: 単行本



のんびり読んでいた本を読了。

自他ともに「8割おじさん」と認める西浦先生の著書です。まあ8割おじさんの呼び名も言われなくなって久しいですが。言われない世界の方が、平和で良いですよね、西浦先生。

さておき、日本における数少ない(らしい)感染症疫学の専門教授、西浦先生とその研究室が全力で、後進のために書き上げた教科書です。

そう、教科書です。前著のような読み物ではありません。

なのでこの学問に興味があるのでなければ読む本ではないでしょう。僕はこのコロナ禍において、国防の最前線に立っていたこの学問がどんなものか、その一端でも触れられれば、ということで読んでみた次第。

内容としてはまさに教科書で、感染症疫学という学問の成り立ちと歴史から始まり、HICやSARS、COVID-19などの実例をサンプルに、この学問の組み立てと、数式の成り立ち、解説などの内容になります。

また実践的な疫学として、調査の手法や酒類、防疫の手法と効果、選択肢などが詳説されています。

まあ例によって半分も理解できてはおりませんが、それでも色々と勉強になる内容です。

海外からの渡航者への検疫が自分が考えた以上に重要であるとか、基本的に感染症対策はマップ兵器の打ち合いである(恐ろしいなもう)とか、分科会の先生方の提言がどういうところに根差したものであるかと言うのがいくらか理解できたのは期待通りの成果でした。

ほんと、ウィルスとの闘いはマップ兵器の打ち合いです。

感染者を1個体見逃したとして、そこから広がる感染者はその個体を中心とした範囲で広がるところとか、逆に検疫で陽性者を一人隔離できれば、そこを起点に広がるはずだった感染を範囲で止められるとか。

ゲーム脳で行くとマップ兵器ですねー、こういう概念は。

最前線で戦われている皆様のご苦労に改めて敬意を表します。

最後に1節ありました、西浦先生の「反省メモ」は、短いながらも身につまされる思いに胸が痛くなりました。GOTO行政はすべからくクソですな。

良い読書でした。
nice!(0)  コメント(0) 

書架探偵 [本と雑誌]


書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/06/22
  • メディア: 単行本



あんず文庫で買い込んだ本です。のんびり読んでおりました。
SF仕立ての推理小説という感じで良かったですね。そういえばアシモフにもそういう作品がありましたが、こちらは全然雰囲気が違います。

近未来。陸ローン(複製)技術により、生前に江守―を作成した人間の複製人間が普通に居る世界。図書館には、作家の陸ローンが「蔵者」として納められている世界が舞台です。

ある女性が、父と兄の死に関係する本の著者を図書館から借りだすところから話は始まります。

SF、ミステリの作家の複製である彼は、女性がはらむ謎解きに挑むことになるのですが、この筋が一癖も蓋癖もあり、実に面白い。

作中世界に関しても、著者を所蔵する、という、どこか背徳的ながら、本読みとしては何とも惹かれる設定が読んでいてぞくぞくします。

リクローンは「もの」であるので、もちろん人権はありません。ある事情から孤立した彼はそのことを隠しながら、協力者と出会い、謎解きと、自らの生存に向けて行動していくのです。

エンターテインメントとして非常に楽しい本でした。おすすめです。

nice!(0)  コメント(0) 

ミセス・クロウコムに学ぶ ヴィクトリア朝クッキング 男爵家料理人のレシピ帳 [本と雑誌]


ミセス・クロウコムに学ぶ ヴィクトリア朝クッキング 男爵家料理人のレシピ帳

ミセス・クロウコムに学ぶ ヴィクトリア朝クッキング 男爵家料理人のレシピ帳

  • 出版社/メーカー: ホビージャパン
  • 発売日: 2021/08/20
  • メディア: 大型本



ここ数年、シャーロック・ホームズとコナンドイルを楽しみにしているのですが、作中に出てくる当時の料理の表現がなかなかおいしそうで(実際のイギリス料理の評判は、ご存知の通りですが)関連の本を1,2冊読んでいます。

そんな時、ツィッターで流れてきたこの本は大変興味深く、さっそく手に取らせていただきました。

現代人でも再現できる(もっとも、訳書の元はイギリスの本なので、だいぶイギリス基準です)ように調整されたレシピと言うのが魅力だと思って読んでみましたが、より重要なのは当時の風俗や、「声なき人々」、つまり貴族や役人と違い、記録に残らないような労働者階級の人々に関する言及ではないかとも思えました。

章ごとに挿入されるこれらの言及というか、元が研究者の本なので研究成果という感じですが、これが実に面白く。

同じくイギリスの市井の人々を描いたドイルの作品をより深く理解するうえで大変貴重な読書だったと思います。

さてレシピですが、実際日本で作るとなるとなかなか厳しいのでは、と言うのが感想ではあります。大分イギリス基準な印象。

例えばドイルの作中にも出てくる「うずらのパイ包み」などは、これはご家庭で気軽に作るというものではないなあという感じ。

ですが、朝食の章にある卵料理などは、あまり料理をしない自分(男性です)でも簡単に出来そうなものも多く、近いうちに試してみようかと思っています。

総じて興味深く、良い本でした。面白かったです。
nice!(0)  コメント(0) 

文学の思い上り [本と雑誌]



ロジェ・カイヨワの著書。

鉱物・模様石収集家としての側面の彼しか知らないので、もう少しいろいろな面を知りたいと思い、カイヨワのメインとなる文学の古書が近所に入荷してたので、購入て読んでみました。

感想としては、うん、わからん(笑

文学を志したり、読み漁ったりしている人向けの話かなあと思いますが、近代文学の嘆かわしい側面を厳しく糾弾する内容のようです。

ですが、指弾しつつも、どこか愛情を感じるような、独特の文章だなあという感想。

よくわからんと言うのが感想ではありますが、何やかや最後まで読み切ってしまうぐらいには魅力のある文章と思いました。

「石が書く」を読んで感じた、どこか子供っぽいところは、今作でも感じられたので、深い思想家でありつつも、若い感性を維持していた人なのだなあ。

良い読書でした。
nice!(0)  コメント(0) 

偉い人ほどすぐ逃げる [本と雑誌]


偉い人ほどすぐ逃げる (文春e-book)

偉い人ほどすぐ逃げる (文春e-book)

  • 作者: 武田 砂鉄
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2021/05/27
  • メディア: Kindle版



ツィッターに流れてきて、タイトルが面白かったのでジャケ買い、というかタイトル買い。
基本、物語中心の本読みなので、評論の類は本買ってまでは読まないのですが。

昨今の世情でうんざりしてる中の少しガス抜きにでもなればという感じでしたが、期待していたよりもだいぶ面白かったです。

著者がライターとして世情を眺めていて、ここ数年に「文學界」という本に連載したもののまとめが主ですが、時系列ではなく、章のテーマごとに編集してあるのが読みやすくて良かったです。

タイトルから期待した”偉い人”の逃げっぷりはなるほど確かにということで面白かったですが、それ以外にここ数年で炎上したり問題になったりしては、忘れ去られていった四方山事を振り返ってみると、やはり「今」の世情につながっているのだな、と言うのがわかって面白かったです。

著者の意見には必ずしも全部賛同できるわけではなく、例えば「愛知トリエンナーレ」へのスタンスはだいぶ違うなあと思いましたが(むろんそのあとのリコール騒動が噴飯ものだったことは変わりませんが)まあ、全く同じ意見だ!と力強く頷くような読書も健全ではないですし、そもそも評論ですからそういう者だと思います。

アベノマスクの意外な効果や、虎ノ門ニュースの紹介など、自分と違った視点で見れたのも、良い学びになりました。

私も御多分に漏れず、ひとしきり騒いでは、この「忘れてもらおう作戦」にのってしまっていたなあ、と言うのは反省ですが、とはいえこれだけヒーローものの怪人のごとく週替わりで不祥事が騒がれる(コロナ禍に入ってからは日替わりですわね。しかもヒーローが解決してくれたりは全くない)世の中では、会社で勤め人してたり日々の生活に追われていたりすると、遠からず追いきれなくなってしまうので、この本の著者、ライターという、そういう話をきちんと整理して覚えていてくれる職業は、やはり世の中に必要なのだと思いました。

良い読書でした。おすすめ。
nice!(0)  コメント(0) 

石が書く [本と雑誌]


石が書く (叢書 創造の小径)

石が書く (叢書 創造の小径)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/02/21
  • メディア: 単行本



長年あこがれた稀覯本を入手(上記リンクではなく、日本の古本屋さん https://www.kosho.or.jp/ にて発見購入)しまして、今日のんびり読破しておりました。

近代の思想家として有名なロジェ・カイヨワの著作ですが、無一文としては鉱物収集の人なので、ピクチャーストーン収集の偉大な先達というイメージです。

以前サンリオSF文庫の「妖精からSFへ」(https://tenkamutekinomuichi.blog.ss-blog.jp/2018-12-18)を読んだときに、フィクションを軽視せずに真正面から考察・分析していく姿勢に敬服を覚えたものですが、今回の本はまさしく、ピクチャーストーン・絵画石や瑪瑙の収集家としてのカイヨワの視点が描かれています。

何よりも貴重なコレクションの図版を楽しみにしておりまして、時折ネットに転がってるのを垣間見ていたものも含め、まさに垂涎のコレクション…

特に《城館》と銘打たれた標本(産地不詳)は、ピクチャーストーンとしてはある意味究極で、いくつもの窓の空いた城塞から窓に映る人影、空を舞う鳥たちに、画面を引き割く雷光までが形成されていた、もう感激を通り超えてうろたえる品物

カイヨワ自身も、何人にも見せたところ、だれもが初見ではトリックとして疑わなかった(よく観察してみてようやく自然の産物だと納得したそうな)というから相当です。

他にもコレクターにとって垂涎の絵画石が多く掲載されていて、いやはや。

フランス国立自然史博物館には、彼のコレクションが遺贈されているといいますし、いつか行きたい外国の有力候補になりますね。

さて本書は(自分にとっては)意外なことに図録ではないので(笑)、カイヨワによる石への想いがじっくりとつづられています。

人間の手になる芸術と、自然が生み出した石などの偶然による芸術を同列に見て思いをはせる、と言うのは、カイヨワならではの視点、論点なのかもしれません。

コレクターの先達として大変刺激になるもので、ここまで想像豊かに石を見れる、語れるというのは、なんというか素直にうらやましくなります。

そしてカイヨワ一流の美しい文章でつづられていますが、根底に流れるのは「ほら、このいい感じのい石、良いでしょ?どお?」といった、少年のような無邪気な楽しさではないかなあ、と思いながら楽しく読んでおりました。

訳者の岡谷先生の解説には、無一文のように石の面しか知らない人でも理解できる、カイヨワの人物像や足跡が、簡潔ながらわかりやすく丁寧にまとめられており、こちらもようやく「カイヨワの顔」が見えた感じがして大変良い文章でした。

うーん、この本が絶版なんてもったいないですね。ぜひ復刊してほしいです。

素晴らしい読書でした。おすすめ。
nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。