虎よ、虎よ! [本と雑誌]
読み終えてから少し間が空いてしまいましたが。
今月のSFノルマは、アルフレッド・ベスター。
SF界の不朽の名作のひとつ、とはいえ一般的には知名度はあまりない作品も多く、これはその一つな気もします。
ジョウント、と呼ばれるテレポート能力が、広く一般に広まった未来の世界。
内惑星連合と外衛星同盟による全面戦争の危機が近づくなかで、主人公のガリー・フォイルは、戦闘簡易より破壊された宇宙船ノーマッドの唯一の生存者として、息も絶え絶えに宇宙を漂流していました。
このまま凍り付いた宇宙空間で死ぬかと思われた彼の視界に、宇宙船ヴォーガの姿が飛び込んできます。
フォイルは必死の努力で何度も何度も救難信号を送りますが、ヴォーガは一瞬停止したのみで、彼を見捨てました。
残されたフォイルの心に燃え上がるのは、絶望の念ではなく、身を焼き焦がすほどの、恐るべき怒りです。
ここから、恐るべき復讐劇が幕を開けるのです。
ストーリーとしては、九死に一生を得たフォイルの、復習にひたむきにまい進する執念と、その彼が知っているはずの、宇宙船ノーマッドの在り処。その積み荷の秘密を知る両政府の高官や富豪、工作員たちの暗躍や闘争です。
テレポートが当たり前となった世界の舞台設定は奇想天外で、基本的に目的地と現在地の座標が分かり、思考することができればどこへでも瞬間移動できる世界での諜報戦のシミュレーションには、ウウムとうならせられるものがあります。
そういった独自の世界を構築しつつ、世界を激しく色濃く描き出すのは、ただただ、フォイルの中に燃え滾る怒りと執念。内なる獣、虎の描写です。
それを視覚化する、どういうわけか決して消すことができなかった、顔面に施された刺青、模様。その恐ろしさが読者の想像力と恐怖心を掻き立てるのがなんとも魅力的でした。
復習に燃えているとはいえ、フォイルはスーパーマンでは決してなく、単なる1宇宙船乗りであるわけですから、その道筋には苦難やどうしようもない運命が何度も降りかかり、何度も捉えられては絶体絶命の危機に陥ります。
そういった、行きつく間もない展開の連続も、物語に勢いがあって面白かったです。
ハードSFとしての舞台設定や考察もまれにみるユニークなものですが、この作品の魅力は、全編を通して描かれる、刺激に満ちたエンターテインメント性じゃないかと思いました。
とても面白い読書でした。
さてこれでまたSFの在庫がなくなってしまいましたね。次は何を読もうか。
何かおすすめのSF小説があれば教えてくだされば幸いです(^^)